愛のシーソーゲーム
「あなた、この手紙何なの」
「ウーン。どれどれ、おいおい、俺には何も見えないよ」
「また すっとぼけて。押し入れの中を片づけしたら出てきたのよ」
「だから俺には何も見えないって言っているだろう。お前さんが何かを持っているような手の形は見えるんだがな」
「見えない? あんた あくまでしらを切る気なの。現に封筒の裏に
差出人は高野牧子って女の名前が書かれているじゃないの」
「お前 何度言ったらわかるんだ 俺には見えないんだよ。でもお前には見えているっていうのだから百歩譲ってその手紙があるとしてその差出人の漢字を教えてくれよ」
「高いの高 野原の野 牧場の牧 子供の子・・・よ」
「なんだ その名前 『たかのぼくし』って読むんだろう。それ男の名前だぜ」
「あんたって言う人は・・・・。でも中味の便箋の文字は女文字だわよ」
「馬鹿、それこそが高野ぼくし本人が書いたんじゃないことを証明しているんじゃないか。どうして男が女文字を真似して書くんだよ」
「あんたは本当に男らしくない人ね。手紙には『たかしさんを愛しています』って書いているわよ。これこそ動かぬ証拠じゃないの」
「なんだ 同性愛者かよ。俺はそんな懸はないぜ。ところで俺にはその便箋も見えないんだが、『たかし』って漢字は何を使っているんだよ」
「ひらがなで『たかし』って書いているわよ」
「お前さんなあ。どうしてそんなにおっちょこちょいないんだよ。世の中には『孝』もいれば『隆』もいれば『喬』もいれば『高志』『隆志』『孝司』『喬司』もいるんだぜ。どうしてその男が俺に特定されるんだよ。それに俺の名前は
かたかなで『タカシ』だぜ」
「・・・・・・あんたの口のうまさにはかなわないわね」
「おい 待て待て待て。俺は世間や会社じゃ真面目一本で通っている男だぜ。そこまで濡れ衣を着せられては俺も黙っていられないよ。ところで俺には見えないんだが、封筒の表の宛名はなんて書いてあるんだ」
「・・・郵便番号も住所も宛名も何も書かれていないわ」
「そしたら消印もないんだろう」
「・・・ないわよ」
「それそれ、俺が思っていた通りじゃないか。俺の推理はこうだよ。
どうせ、手紙を挟んだままの本を俺がブックオフで買って、きっと、片付けもせずにそれを押入れに放り込んでいたんだよ。もしお前さんが手に持っている俺に見えない何かがお前さんの言う手紙だったとしてだよ。あくまで仮定の話だが」
「あんた自分の妻に白い鷺を黒い鷺と言いくるめるつもりなのね」
「馬鹿野郎 人聞きの悪いことを言うもんじゃないぜ。俺は白いのを黒いと言っているんじゃないぜ。見えないものを見えないと言っているだけだぜ」
「私 悔しい・・・・こんなにあんたにこけにされて涙が出てくるわ」
「おいおい、泣くなよ。お前には見えて俺には見えない。きっとお前さん、神経が張り詰めて疲れているんだぜ。だから見えないものまで見えて来るんだよ。どこか旅行にでも行って骨休めをしたらどうなんだい」
「本当? そこまで憎まれ口叩きながら、やっぱりあんたやさしい人なのね」
「俺が結婚して以来お前にやさしくなかった時があるか。いつも君の瞳に乾杯だったぜ」
「ちょうどよかったわ。私、お友だちから三泊四日の温泉旅行に誘われていたの。あなたさえよければさっそくお友だちに電話して旅行の手配をするわ」
「いいよ、いいよ、俺に遠慮することはないさ。・・・(しかし 今日は危なかったなあ。女の動物的嗅覚は凄いな。これじゃ、今夜中にパソコンと携帯のメールもきちんと処理しておかないと)・・・」
「あなた ほんとにありがとう。・・・(馬鹿な男ねえ。こちらが何もかもお見通しだということも知らずに気どっちゃって。いい歳をして若い女と文通なんかしちゃって。いつまで青臭いのかしら。何が君の瞳に乾杯よ、バ――カ。温泉旅行から帰ってきたら今度はコピーしておいたメールをネタにヨーロッパ旅行でも行こうかしら)・・・」


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たそがれ親父の人生ノート
「ウーン。どれどれ、おいおい、俺には何も見えないよ」
「また すっとぼけて。押し入れの中を片づけしたら出てきたのよ」
「だから俺には何も見えないって言っているだろう。お前さんが何かを持っているような手の形は見えるんだがな」
「見えない? あんた あくまでしらを切る気なの。現に封筒の裏に
差出人は高野牧子って女の名前が書かれているじゃないの」
「お前 何度言ったらわかるんだ 俺には見えないんだよ。でもお前には見えているっていうのだから百歩譲ってその手紙があるとしてその差出人の漢字を教えてくれよ」
「高いの高 野原の野 牧場の牧 子供の子・・・よ」
「なんだ その名前 『たかのぼくし』って読むんだろう。それ男の名前だぜ」
「あんたって言う人は・・・・。でも中味の便箋の文字は女文字だわよ」
「馬鹿、それこそが高野ぼくし本人が書いたんじゃないことを証明しているんじゃないか。どうして男が女文字を真似して書くんだよ」
「あんたは本当に男らしくない人ね。手紙には『たかしさんを愛しています』って書いているわよ。これこそ動かぬ証拠じゃないの」
「なんだ 同性愛者かよ。俺はそんな懸はないぜ。ところで俺にはその便箋も見えないんだが、『たかし』って漢字は何を使っているんだよ」
「ひらがなで『たかし』って書いているわよ」
「お前さんなあ。どうしてそんなにおっちょこちょいないんだよ。世の中には『孝』もいれば『隆』もいれば『喬』もいれば『高志』『隆志』『孝司』『喬司』もいるんだぜ。どうしてその男が俺に特定されるんだよ。それに俺の名前は
かたかなで『タカシ』だぜ」
「・・・・・・あんたの口のうまさにはかなわないわね」
「おい 待て待て待て。俺は世間や会社じゃ真面目一本で通っている男だぜ。そこまで濡れ衣を着せられては俺も黙っていられないよ。ところで俺には見えないんだが、封筒の表の宛名はなんて書いてあるんだ」
「・・・郵便番号も住所も宛名も何も書かれていないわ」
「そしたら消印もないんだろう」
「・・・ないわよ」
「それそれ、俺が思っていた通りじゃないか。俺の推理はこうだよ。
どうせ、手紙を挟んだままの本を俺がブックオフで買って、きっと、片付けもせずにそれを押入れに放り込んでいたんだよ。もしお前さんが手に持っている俺に見えない何かがお前さんの言う手紙だったとしてだよ。あくまで仮定の話だが」
「あんた自分の妻に白い鷺を黒い鷺と言いくるめるつもりなのね」
「馬鹿野郎 人聞きの悪いことを言うもんじゃないぜ。俺は白いのを黒いと言っているんじゃないぜ。見えないものを見えないと言っているだけだぜ」
「私 悔しい・・・・こんなにあんたにこけにされて涙が出てくるわ」
「おいおい、泣くなよ。お前には見えて俺には見えない。きっとお前さん、神経が張り詰めて疲れているんだぜ。だから見えないものまで見えて来るんだよ。どこか旅行にでも行って骨休めをしたらどうなんだい」
「本当? そこまで憎まれ口叩きながら、やっぱりあんたやさしい人なのね」
「俺が結婚して以来お前にやさしくなかった時があるか。いつも君の瞳に乾杯だったぜ」
「ちょうどよかったわ。私、お友だちから三泊四日の温泉旅行に誘われていたの。あなたさえよければさっそくお友だちに電話して旅行の手配をするわ」
「いいよ、いいよ、俺に遠慮することはないさ。・・・(しかし 今日は危なかったなあ。女の動物的嗅覚は凄いな。これじゃ、今夜中にパソコンと携帯のメールもきちんと処理しておかないと)・・・」
「あなた ほんとにありがとう。・・・(馬鹿な男ねえ。こちらが何もかもお見通しだということも知らずに気どっちゃって。いい歳をして若い女と文通なんかしちゃって。いつまで青臭いのかしら。何が君の瞳に乾杯よ、バ――カ。温泉旅行から帰ってきたら今度はコピーしておいたメールをネタにヨーロッパ旅行でも行こうかしら)・・・」


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